録音はあまり良くないし、楽団もそんなに上手ではないが、ほぼ同時期のデッカ盤（本ページの「１」）に比べれははるかにリラックスした爽快な演奏。終楽章の激しいラッシュは30年以上後の録音になるBP盤（本ページの「９」）の演奏を連想させる。
まだ２０代中盤のポリーニ、３０代中盤のアバド、非正規盤ながら、両者の共演の録音としてはかなり早い時期に属するのではないかと思われる。
モノラル録音で状態も良くないが、粒立ち（？）のいいポリーニの独奏の魅力はそれなりに味わえる。指揮と楽団はやや四角張った感じもあるものの両端楽章の勢い・力強さも中間楽章のしっとり感もなかなかのもの。
・ピアノ協奏曲第4番
１９６９
チアーニ（1941〜74）とアバドの共演録音はこのほかにブラームスの第1番の協奏曲（Stradivarius）があるが総数は少なく、このベートーヴェンも貴重な存在と思う。
・第1番・・・明朗で引き締まった指揮とオーケストラの上で、優美な、時に力強い独奏が映える。第1楽章はやや固い感じもするが、第2楽章以降は指揮者・独奏者ともその固さがとれて、より充実した音楽を聴かせてくれる。
・第4番･･･第1番より演奏の時期は早いが、曲の完成度の違いもあってか演奏（その特徴は基本的に第1番と同じ）の充実感・説得力はこっちのほうがより強い。全3楽章を通した構成・バランス・演出もしっかりしている。軽やかに舞うかのようなチアーニの独奏は特に素晴らしい。
・・・あと、私の無知・不勉強故と思うが、本演奏で使われている第4番第1楽章のカデンツァは初めて聴いた。
ただし、CD-Rの表紙を見る限りでは、この演奏の指揮者は「ADDADO」さん、である可能性もある。
それはともかく、録音状態（一応、ステレオ）は意外？によい。
演奏時間の数字を見る限りはそんなに遅いテンポの演奏ではないと思うのだが、全体的にゆったりとした穏やかな解釈。
ただ、独奏者も指揮者も好調とは言えず、慣れないオーケストラということもあってか音楽の流れが悪くなる場面も多い。
その傾向は最初の二つの楽章で特に強い。終楽章ではうって変わって生き生きとした演奏を展開するものの、総合的にみてこの演奏には60年代末のアルゲリッチ/アバドの一連のＤＧ録音並のクオリティは望むべくも無い、と言わざるを得ない。
それでも随所に「アバドの伴奏指揮」らしい微妙なデリカシーを聴くことができるのはファンにとってはうれしいところ。
・「プロメテウスの創造物」序曲
・「ピアノ協奏曲第４番」：
録音状態は８４年のＬＳＯ盤（ＬＣB）よりもこっちのほうがはるかにいい。ただ楽団の音色、独奏者の演奏ともに均整が取れすぎている感がある。
・「プロメテウス」序曲：
音色は爽やか。でも、やや単調な演奏。
ＥＣユース管弦楽団は２曲とも熱演だが、他の著名楽団と比べた場合には非力さを感じざるを得ないのは仕方のないところだとも思う。
むしろ、非正規盤ではあってもアバドと同楽団の数少ない録音のひとつ、ということ自体に意義を認めるべきかも知れない。
LCB１０９
デルネシュ、
イェルザレム、
ホーニク
正直、楽団があまり上手とは思えないが、それをも温和で穏やかな雰囲気の中に包み込んで長所のごとく聴かせてしまうところが指揮者の能力というより人徳？か。この時期のアバドだから全体的な穏当？な解釈。同コンセプトの演奏としてはウィーンフィルとのDG盤があれば一般的には十分と思うが、終楽章ラストのラッシュぶりは正規録音やスタジオ録音にはない彼らしさを感じさせてくれる。
・「プロメテウスの創造物」序曲
・序曲「レオノーレ第２」
LCB１０５
・交響曲第3番・・・演奏の基本的な特徴は同時期に収録されたLSOとの第6番〜第8番と共通する。80年代末のWPとの全曲録音ほどの華やかさには欠けるものの、保守的なあるいは権威主義的な性格はこれらのLSO盤では希薄。
このエロイカも、WP/DG盤にあった「フルトヴェングラーへのオマージュ」的な雰囲気よりも、アバドが愚直なまでに「当時の彼自身にとってのべートーヴェン」を表現しようとした意欲を強く感じる演奏である。
・「プロメテウス」・・・最初の一音が欠けていませんかこの録音（苦笑）。それを除けばスケールの大きく軽快な演奏。
・「レオノーレ第２」・・・普段は「レオノーレ第３」との比較で思わず「類似品にご注意ください」と言いたくなってしまう曲（失礼）なのだが、もちろん？こっちも完成度が高い曲とは言えないとしても「本物」。その、作品自体が持つ武骨さ・荒削りさを損なうことなく全曲を通した一貫性とまとまりを与えた意外？な好演。（ただ、そういう演奏で聴いてしまうと逆に改めて「レオノーレ第３」のほうがはるかに名曲なのだな、とは思わざるをを得ない・・・。）
・序曲「レオノーレ第３」
・「エグモント」
・「コリオラン」
・ロマンス第１番・同第２番
LCB１０６
（ロマンス）
ともあれ「アバド/ＬＳＯのベートーヴェン」しかも１９８４年といえば同コンビの全盛期ともいえるし、加えてこの８４年のアバド/LSOによるベートーヴェン主要曲の連続演奏会は現地ではかなり好評だったらしいという記事を当時見たこともあり、「非正規」の後ろめたささえなければ本当に貴重な記録と思う。
どれも録音はあまり良くない（もともとはエアチェック音源？）。
・交響曲第6番・・・1984年4月29日の収録。
この数年後のウィーンフィルとのCD（DG）も良かったが、これは、そこから豪奢な装飾を取り除いたかのような直截で爽快でかつ力強い音楽作り。（これでもう少し早いテンポだったら後年のベルリン全集のほうに近い解釈となるかも・・・）
・「レオノーレ第３」・・・1984年4月15日の収録。
明朗で引き締まった演奏。やや緻密さには欠けるが。
・「エグモント」・・・1984年4月17日の収録。
微妙なアゴーギクと前のめり気味の速いテンポが劇的高揚感を盛り上げる。アバドの同曲の演奏では最もエキサイティングかつスタイリッシュ。録音が良くないのが本当に惜しい。
・「コリオラン」・・・1984年4月29日の収録。
随所に感じられる熱い情熱と流麗なカンタービレは、ヴェルディ序曲集か？と言いたくなるほど（笑）。ベートーヴェンらしさ、よりはアバドらしさ、が上回る。
・ロマンス・・・2曲とも「1984年」収録、以上の具体的記載はなし。
室内楽的な親密さとシンフォニックな壮大さを併せ持った指揮とオーケストラに乗って、やや神経質な雰囲気もないではないミンツの独奏がデリケートに優しく「歌う」。
2曲とも安心して聴けるが、協奏曲的な掛け合いの妙は「第2番」の演奏のほうでよりはっきりと表現されていると思う。
・同 第８番
LCB１０９
とにかく、この時期のベートーベンの正規録音の相手がＬＳＯだったら・・・。
・ピアノ協奏曲第4番
LCB115
ステレオ音声ながら、エアチェック音源かと思わせるノイズも時々入っているほか低音域は終始にごり気味で音質は決してよくない。
ただ、激しくも真摯な「第３番」、優しくもスケールの大きな「第４番」（特に、うねるような濃い情感を客観的に表現した第３楽章は正規盤を含めたアバド/ＬＳＯの録音の中でも最高レベルの演奏のひとつ）。独奏者（力強い打鍵としっとりとした情感は無理なく融合）・指揮（柔和な微笑のもとに厳しく引き締めるかのような迫力）・楽団（正直、粗もあるが安定感のある低音部の上で各パートが軽やかに鮮やかに舞う）、いずれの充実度もベルリンのDG盤とは比較にならないくらいに高い・・・こういう「ライブ」こそ、正規録音で残して欲しいものだが。
DG盤では編集者のいたずらか悪い冗談にしか聴こえなかったポリーニの唸り声も、物理的には不明瞭に聴こえるこのＣＤのほうではむしろ必然的な存在というか、この演奏・音楽の一部として自然に溶け込んでいる。
・・・たぶん87年頃にNHK−FMで放送されたこともある演奏なのでは？と思うが、それを録音したカセットテープが手元にないのでとりあえず未確認。（そのカセットテープは90年代初めに当時の知人の一人にあげたような記憶もあるのだが、それも未確認（苦笑）。）
いずれにせよ、ステレオ録音。わずかに「エアチェック音源？」と思えるノイズが入るが、音の状態はこのページで紹介した他の非正規盤とは比較にならないほど格段に良好。
ベートーヴェン交響曲全集に取り組んでいた時期のアバド/ウィーンフィルならではの明朗さと充実感、ポリーニの力強くも優雅で華麗な独奏、いずれもスケールが大きく安定感があるが、やや「保守的」な演奏とも言えなくもない。
しかしそれでも・・・ポリーニ/アバド/ベルリンのDG正規録音で最も酷い演奏が第５番だと正直思うのだが、このウィーンフィルとのザルツブルクライブはその失望感を補って余りある名演である。（なお、上のLSO盤同様、ここでもポリーニの唸り声が極めて「音楽的」。）
FKMCDR-52（CD-R盤）
アバド/WPの全盛期らしい、厚く優しい指揮とオーケストラ。明晰で力強くそれでいて格調高い独奏者。
・・・ポリーニとアバドによる「ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全集」が正規に録音される時期として最も適していたのは、
84年にＬＳＯと、だったのか、それとも86〜87年にＷＰと、だったのか、は意見が分かれるかもしれないが、
（何度も言うが）少なくとも92〜93年にBPと、ではなかったことだけは間違いない、と改めて痛感する。
2S-052（CD-R盤）
まだ？基本的には保守的な解釈ながら快活軽妙な演奏。曲との相性の良ささえも感じる。
ただ、99〜01年の全曲録音の解釈を是とする立場から見れば、明確な個性や突き詰めた解釈の不足、という点で、もの足りなさを感じないでもない。
非正規盤ながら、ベートーヴェン作品ではピリスとの唯一（？）の共演。
演奏は全体的に明朗快活。勢いと躍動感のある独奏者を指揮と楽団が余裕を持って的確にサポートする。
この頃にはアバド/WPの共演回数はかなり減ってきていたと思うが、80年代中盤〜後半のこのコンビ全盛期と変わらぬ華やかでよく歌う安心と信頼の演奏を展開。指揮者は同時期のBPとの演奏・録音よりもむしろ伸び伸びと、よい意味で気楽に取り組んでいるのが好結果につながっているようにも思う。
少し後のプレトニェフやアルゲリッチとの録音も好演だったが、ベートーヴェンの５つのピアノ協奏曲の中では「第2番」が最もアバドとの相性がいいのかも知れない。
・ヴァイオリン協奏曲
・合唱幻想曲
ポリーニ
・交響曲第4番：
直前のDG盤やEUROARTS盤よりも、録音のせいもあってか良くも悪くもずっと重厚な演奏に聴こえる。
特に、ズシンズシン・・・と進む第2楽章は、これがアバド指揮のこの曲か？と言いたくなるほどの”迫力”（笑）。
が、第3〜4楽章は（この頃の）アバド（のベートーヴェン）らしく明朗で軽快に決めている。
・「ヴァイオリン協奏曲」：
録音の加減もあるのかも知れないが、99〜00年のベートーヴェン交響曲全集で完全にモデルチェンジした・・・と思い込んでいたアバド/ベルリンフィルがここではある意味復古的な重厚な演奏を展開。ただ、それは、優しくもどっしりしたヴェンゲーロフの独奏にも、また、やや鈍重ながらも大らかで穏やかなこの協奏曲にも合っているとは思う。
それと、この種のCD-R盤では楽章間がかなり荒っぽく編集されているのが気になることが多いのだが、本曲ではそんなことはなく演奏と連続した会場ノイズがしっかり入っているのが逆に好感度を高めている。
・「合唱幻想曲」：
CD-Rにはポリーニ以外の共演者（独唱者・合唱団）の名は記されていないが、曲前半のポリーニ主体に進行する部分と終盤に声楽が入ってからが特に聴き応えのある演奏・・・いや、他意はない。
正直録音状態が良くないこともあり、またアバドの「合唱幻想曲」ならばポリーニ/ウィーンフィルもキーシン/ベルリンフィルもどちらも普通に素晴らしい演奏でもあるので、それらを差し置いてあえてこれを推す理由は特にない。
SUCD-139-K（CD-R盤）
同じ演奏会のベルリオーズ/「テ・デウム」を併録。
・・・このときのアバドのBPへの客演の直前に、ベルリンフィルハーモニーホールでボヤがあった（それを伝えるTVニュースの映像でアバドが
「大変なことになったね、今日のリハーサルはもちろん中止だろうね？」とにこやか（？）にインタビューに答えていた様子は当時一部（というか某巨大掲示板群）で物議を醸した記憶もあるが）ために、急遽会場が変更された、という経緯があったはず。
基本的には好演。
野外コンサートということで、演奏中も鳥のさえずりが普通に入ってくるのが愉しく趣がある。
ただ、第二楽章で飛行機の音が入ってくるのは何とかして欲しかったけど（苦笑）。
また、力強く「太い」指揮とオーケストラ（99〜01年頃のアバド/BPのベートーヴェン解釈は実はその一時期に限定された例外的なものだったのだろうか？と、この2008年の非正規盤や、2010年のルツェルンでの「フィデリオ」のCDを聴いて思い直し始めているところでもあるのだが）に、繊細な叙情性の勝る独奏者・・・と、かつてのポリーニ/アバドの共演とは正反対の役割分担になっているのも興味深いところである。
それにしても・・・ポリーニとアバドのベートーヴェンの協奏曲では非正規盤が多いが、「非正規盤のほうにいい演奏が多い」ことはくどいようだが繰り返し強調しておく。
2011年7月（１４の一部）、12月（１２、１３、１６）、2012年1月（３、１５の一部）、2012年9月（１４）記。