・「大学祝典序曲」
20MG0064（LP）
POCG1313
ベルリンフィルの音色を生かしながら、穏やかながらも要所をしっかり抑えたメリハリのある指揮で、この、はっきり言って退屈な曲をそれなりに聴かせている。あえてこの曲を取り上げたことへの説得力を十分に感じさせてくれることも含めて、70年代初頭の交響曲全集の各曲よりも優れている点が多い演奏である。
「大学祝典序曲」・・・アバドにとっては最も相性のいい曲のひとつと思う。指揮のスケールと説得力は本ページ「12」の演奏には及ばないがオーケストラの音色はこちらのほうが個性的で、十分な存在価値がある。
・「運命の歌」
アンブロジアンシンガーズ
「運命の歌」・・・後の再録音に比べると精緻さでややひけをとるところがある上に演奏の展開が一本調子なところがあるが、見方を変えればストレートでわかりやすい、若手指揮者らしい表現とも言える。真摯さや誠実さはこの頃から変わりなし。また合唱団の「厚さ」は「リナルド」同様に強烈なインパクトを与えてくれる。
20MG0042（LP）
UCCG9124
改めて聴いてみると・・・正直、録音は古さを隠せないが、演奏自体はアバドの明朗な音楽作りが強い説得力を持ち、ベルリンフィルの厚い音とのバランスもいい。オーボエ（この当時だとコッホさん？）をはじめ木管楽器の音色の味わい深さもいい。
1970年11月のこの録音はアバド/ベルリンフィルの3枚目のアルバムだったが、アバドが次にこのオーケストラで録音をするのは10年以上あとの話になる。
POCG91008
この4曲中、特に世評の高いのは「第2番」だが、この「第1番」もウィーンフィルの流麗な音がアバドの（ややこじんまりしているが）丁寧な指揮とうまく融合しており決して悪くはない。
427 199-2
・「ハイドンの主題による変奏曲」
20MG0062（LP）
461 084-2
アバドはこの時期のブラームス交響曲の全曲録音中、満足できたものは1曲しかない、と後に語っている（ポリドール（株）編1983『アバド読本』15ページ参照）が、その1曲がどれだったのかは具体的に言及していない。
・・・どれだったのだろうか・・・。
MG1083（LP）
F28G22024
全編を通して力強くも情熱的。音色・音の強弱・楽章ごとの曲想等々いずれもコントラストのはっきりした鮮やかな演奏で、加えて時折感じさせる独特の・・・なんていうか、セクシーさ（笑）は絶品。揺ぎ無い確信に満ちたポリーニの強靭な打鍵、ウィーンフィルならではの柔和でノスタルジックな雰囲気と、それをあえて断ち切るかのようにアグレッシブにコントロールするアバドの指揮、いずれも素晴らしい。
数あるポリーニ/アバドの共演ではこれが最も優れた録音だと思っている。
28MG0664（LP）
POCG1312
この「第1番」は「第2番」よりもずっと快活で若々しい作品。アバドの指揮も当然ながら「第2番」の頃よりもスケールが大きくなっている上に開放的。一見冗長な演奏と見せかけて実は甘く切なく聴かせる第三楽章は特にいい。
全体的にベルリンフィルの管楽器の巧さと美しさが光るが、その一方で弦が（特に強く弾くところで）「開放的に過ぎる」ような感じが否めないのは、90年代（特に前半〜中盤頃）のこのコンビの録音を知ったあとではある意味感慨深いものもある・・・。
410 615-2
情熱的でスタイリッシュ。リズム感のよさとデュナーミク調整の巧妙さはロッシーニの作品を指揮したときのアバドを彷彿とさせるが、それだけ指揮者の個性と特徴が前面に出た演奏と思う。一方で「ハンガリー舞曲」の”ハンガリーらしさ”（バルトークさんごめんなさい）は主にオーケストラのほうで濃厚に滲み出してくれている。
一見「軽め」のレパートリーだが、演奏の質と「量」（全21曲を収録、という資料的価値も大きいだろう）の両面において、アバド/ウィーンフィルのコンビの代表的録音のひとつ。
なお、この録音については「DGが、（デッカがウィーンフィルを録音する際に用いていた）ゾフィエンザールを用いて行った」ことも発売当初は話題になっていたものだった。そのつもりで聴くと他のアバド/ウィーンフィルのDG録音よりも「硬めに」感じられなくなくもないが、それは曲想にも演奏の特質とも合っているとも思う。
32CD650
また、正直ブラームスに限らずアバド/ベルリンフィルの録音でこれほど弦の美しい（管は基本的にどの時期のどんな演奏でもいいのだが）演奏はほかにはない。
演奏の完成度に説得力の高さ、不自然さや聴きにくさが皆無の自然かつ鮮やかな録音・・・1987年の初出時に圧倒されて以来何度も繰り返し聴いているが、個人的には音楽監督になる以前・以後を問わずアバドがベルリンフィルを指揮したレコード・ＣＤの中ではこれがベストと思う。また数多い彼の「協奏曲での伴奏指揮」の中でもトップクラスの存在である。
（CBS）
30DC5065
マ（Vc）
独奏者は、マが安定した技巧に支えられた甘く優しい音色で全曲をリードしているといってもよい圧倒的な存在感を示している一方で、スターンは手堅くまとめながらも一歩引いた感じ。このチェロの若き巨匠と大ベテランのヴァイオリンの微妙なバランスを、アバドがしっかりと取っている、とも言える。
80年代中盤以降、アバド/シカゴの録音はCBS（ソニー）が主体になり、数も減っている。
80年代末〜90年代初めにはチャイコフスキーの交響曲が何点か（「第4番」「第1番」「第3番」）リリースされるが、それらの出来栄えと比べると、結果的にこのブラームスが、アバド/シカゴ「最後」の名演奏になったような気がする。
・「大学祝典序曲」
423 617-2
「大学祝典序曲」は、明るい曲想とめまぐるしく移り変わる様々なモティーフの特徴や魅力をしっかりと表現しつくした上で高レベルで纏め上げた名演。これが収録されていることが本CDの価値をさらに高めている。
・交響曲第2番
427 643-2
エルンスト・ゼンフ合唱団
「アルト・ラプソディ」は指揮者・楽団・独唱者・合唱団とも抑制の利いた品のある、この時期のアバドらしい演奏。
「交響曲第2番」も同傾向の演奏。同じ楽団を指揮した1970年の旧盤に比べて素朴で実直な味わいは減退したが、スケールが大きく美麗。中間の２つの楽章の表現も巧み。
個人的にはこの新盤のほうが好きだが、旧盤のほうをより高く評価する人がいてもおかしくないとも正直思う・・・。
・「運命の歌」
・交響曲第3番
POCG1059
「悲劇的序曲」・・・演奏の良し悪しというより指揮者と曲の相性の悪さを感じる。少なくともアバドの指揮（録音）で聴く限りはこの曲よりも「大学祝典序曲」のほうが100倍傑作に聴こえる。
「運命の歌」・・・2回目の録音になる。基本的な特徴は「13」の「アルト・ラプソディ」と共通（独唱者はいないが）するが、より精緻な演奏。前半の清澄な進行のときはもちろん、後半の劇的な展開の中でも外面的な効果よりも内面的な高揚を強く印象づけられる名演。
「交響曲第３番」・・・ドレスデンとの旧盤よりもスケール・求心力ともはるかに高い演奏であるのは間違いない。アバドのブラームス第３ならば迷うことなくこっち、なのだが・・・・・・以前から感じてはいたのだが、この演奏の良し悪しとは全く別に、「私と」この曲の相性は良くないな、と聴くたびに痛感する（苦笑）。
・「運命の女神の歌」
POCG1475
「運命の女神の歌」・・・も「交響曲第1番」と同様に劇的起伏の激しい演奏。
このときのブラームス交響曲全集（＋α）は、「＋α」の部分がアバドらしいというか凝った選曲になっているのもファンとしてはうれしいところ。
また、国内盤の解説を今読むと、いろんな意味で、感慨深い。
・「悲歌」
・交響曲第4番
POCG1476
1991
「悲歌」・・・ペーター・ペーターゼン氏（渡辺裕氏訳）の解説によると、亡くなった友人の哀悼歌としてブラームスが作った曲、ということだが、通俗的な悲痛さや陰鬱さはなく、同じ作曲者による「ドイツ・レクイエム」のエッセンスを詰め込んだような上品かつ耽美的な作品。アバドの演奏もまたそんな感じ。
なお「愛する者の口で悲歌に歌われることもすばらしい。凡庸なるものは楽の音もなく冥府に下っていくからだ。」（石井不二雄氏訳）のくだりは、この歌詞の作者が、某「第九」の歌詞の作者と同一人物であることを痛感させてくれる・・・。
「交響曲第4番」・・・この曲だけ録音会場が「シャオシュピールハウス」。千勝泰生氏の解説を読む限りは録音技師泣かせの会場のようだが、結果としてはアバド/ベルリンフィルのDG録音にそれ以前から（それ以降はなおのこと）多かった混濁するかのような不鮮明さを逃れている数少ない演奏となった。しかし演奏自体の魅力は「第1番」には及ばない。曲想の違い以上の、勢いと緊張感の差がある。
それでも、この1991年9月録音の「第4番」が、70年代後半から90年頃までの「アバドが最も華やかだった時期」の最後を飾る演奏のひとつであることには変わりはない。
このあと、再びアバドが華やかさを、輝きを取り戻したときには、演奏スタイルは全く別物になっていることになる。
PHCP191
独奏者・指揮者・楽団がそれぞれ大風呂敷を広げやりたい放題ながら同じ方向を向いているかのようなある意味痛快な演奏。また「ライブ録音」とかは明記されていないのだが、特に独奏者の即興性や自在感の際立つ演奏でもある。
それでいて「７」のポリーニ/ウィーン盤よりは万人受けするとも思う。
個人的には「ピアノとチェロのための二重協奏曲（笑）」になる第三楽章のしっとりした表現が心に残る。
でも同じ顔合わせの「10」と比べると緊張感とまとまりの面で少なからずひけをとっている、と言わざるを得ないのも正直な感想。
PHCP1420
作品の表現としては「12」のミンツ盤よりもどっしりとして説得力があると言えるし、独奏者の技量も個性もムローヴァのほうが上だと思う。ただ、楽団が「軽快」というより単に「軽く」なっているようにも聴こえるのは決して録音のせいだけではないとも思う（ムローヴァのヴァイオリンはむしろ重めに聴こえるのだから）。
POCG1655
スウェーデン放送合唱団
エリック・エリクソン室内合唱団
でもこの演奏、確かに楽団の音にはよくも悪しくも重厚さはなく（低音は効いているのだが）指揮も含めて決してスケールの大きい演奏ではないが、本当に真面目で慎ましやかな、というか真摯な演奏であるのも間違いない。（この曲は基本的には「外に訴えかける」作品ではないと個人的には思っているので、演奏のコンセプトはこれでいいのだとも思う。）
スウェーデン放送合唱団＋エリック・エリクソン室内合唱団は技量・声質の統一感・品格等々全く申し分なし。第2曲のやるせない哀しさ、第3曲ラストのフーガの恐ろしいまでの緻密さ、第6曲の劇的なまた高貴な高揚など各楽章の特色をはっきりと表出し、そのほかの部分も含め全曲を通して間然するところがない。
合唱曲なのだから当然と言えば当然だが、この合唱団の力量と魅力がこのCDの演奏全体（指揮者をも）をリードしているようにさえ感じる。
独唱者は、人間の弱さ・儚さをストレートにしかし上品に歌いきったシュミットが実にみごと。一方ステューダーは声そのものは美しいものの歌唱の説得力がやや弱い感じがする。
SK53975
・・・アバドが同じ曲を3回以上「正規に」録音した例は当然のことながらそんなに多くはないが、この「運命の歌」に限れば回を重ねるごとに確実に「良く」なってきている。
2回目（本ページの「14」）と時期的にあまり離れておらず基本的なコンセプトは共通しているが、全曲を通してより清澄で深い「祈り」が感じされるのは合唱団が違うとかレーベル（録音）が違うとかいう次元の理由ではないだろう（ただ、弱音での合唱の美しさ（が明瞭に聴き取れること）がこのCDの長所のひとつなのも事実だが）。
POCG10049
この時期のアバド/ベルリンフィルとしては落ち着いたほうの音だとも思う。
録音も鮮明である。
でも、うまく言えないのだが「聴いていてわくわくした気持ちにさせられるなにか」が、「７」に比べて決定的に不足している。
また、即興的なかけあいの面白さでは、ブレンデルとの「16」のほうがはるかに勝る。
（ただ、第三楽章に関しては端整さでこっちのほうがいいかも。）
「優等生的で毒気がない」はアバドへの不満・批判の常套句なわけだが、他の人がそのように批判する演奏のことはあまりそうは思わない私が、そのように言わざるを得ない録音のひとつである。
POCG10139
明らかに「丸く」なった、あるいはそうなり過ぎたポリーニ、明るく華やかだが重みとまとまりに乏しいオーケストラの音、
いずれも本ページ「10」のブレンデル盤における同曲の演奏には及ばない。
（あと、CDの解説文で語られている演奏・演奏者の話がポリーニ主体で、アバドのことは最後におまけ程度にしか書かれていないことを、この頃（日本盤は98年11月初出）のアバドに対する世評を反映しているかのように感じてしまう私は自虐的アバドファンなのだろう（苦笑）。）
ともあれ、
本ページ「21」と「22」の2曲は、同じ指揮者と独奏者と楽団のベートーヴェン協奏曲集よりはずっといい演奏・録音とは思うのだが、70〜80年代のポリーニ/アバドの共演録音と比べると、なにか、大人しいというか、食い足りない感も否めないのも正直な感想。
・ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲
UCCG1112
2001
ワン（Vc）
「12」のミンツ盤と「18」のムローヴァ盤のどちらにも程度の差こそあれ感じられた、有名曲にこびりついた形骸化した権威はここでは微塵も感じられない。シャキシャキと鮮やかなオーケストラの進行と、折り目正しくも若々しく躍動するシャハムの独奏が違和感なく融合した爽快な演奏。
「二重協奏曲」・・・2001年12月の録音。演奏の基本的な性格はヴァイオリン協奏曲と共通する。ジャン・ワンの芳醇な力強い響きのチェロ独奏が軽快なシャハムのヴァイオリン独奏と鋭く対峙しつつ絡み合う緊迫感をアバド/ベルリンフィルがしっかりと囲みこんだスリリングかつ安定感のある演奏。
一般にこの曲を説明するときによく用いられるブラームスの円熟や渋さには「故意に」背を向けているとしか思えないが、若い二人の独奏者に無理にそれを求めて中途半端な演奏になるよりはよほど潔いし、また、そういった「居直り」が、アバドがこの時期に獲得した新たな魅力であることを改めて強く感じさせてくれる演奏である。
476 5786
アバドの自在な指揮の前にテンポもオーケストラの音色も微妙にしかし敏感に反応する。それでいて神経質さは全く感じられない実におおらかで牧歌的な演奏。
ややまとまりに欠けるところはあるものの、そもそも「そんなものはこの曲に必要なのか」という気も個人的にはするので別に問題はないだろう。
むしろ、アバドが若いオーケストラと共に音楽を作っている中に生まれる喜びや充実感を感じ取るべき。（「感じ取れない」「その気がない」人はそもそもこのCDを買おうともしないだろうけども（苦笑）。）上手下手でいえば本ページ「８」のベルリンフィル盤のほうが上だが、聴いていておもしろいのは間違いなくこっちのほうである。
POLG1105（LD）、UCBG1257/8（DVD）
レーザーディスクには「１９７７年の収録」と書いてあるがそれは恐らく間違い。ちなみに同じ演奏者たちによる同じ曲のＬＰ（ＭＧ１０８３）に書かれている録音日と場所は「１９７６年５月２４−２６日、ウィーン、ムジークフェラインザール」。
DVDの解説書（ヴェルナー・プフィスター（歌崎和彦訳）には、「ライブ収録」と書いてあるのだが、客席はほとんど映らないし聴衆がいる雰囲気も感じられない映像（だから悪いというわけではない）。
ともあれ、演奏の雰囲気・内容ともＬＰ・ＣＤ（上記の「７」）とほぼ同一（全く同一の音源か、までは私には断定できない）。
音も映像もやや古くなった感は否めないが、少なくとも私が持っているＣＤよりはＬＤ・ＤＶＤとも音質はまろやかで聴きやすい。
端正で真面目な風貌の指揮者、貴公子然とした独奏者、二人の若さが眩しい。個人的にはポリーニ/アバドのコンビの「正規録音」ではこの曲が最高の出来だと思っているが、それが映像つきでも残っていることは大変うれしい。
（EUROARTS）
101047
（DVD）
ボニー、
スウェーデン放送合唱団、
エリク・エリクソン室内合唱団
アバド/BPは92年録音のCDよりも集中力と密度の高い演奏。重厚さも増している・・・録音がCDよりもこのDVDのほうが良い（と私には思える）せいかも知れないが・・・が、決して重苦しくはない。80年代末〜90年代初期のアバド/ＷＰ全盛期と同様の穏やかで暖かな雰囲気が随所に感じられるのは明らかに会場のせいだと思うが。
そして、なんと言っても、スウェーデン放送合唱団＋エリク・エリクソン室内合唱団。
・・・ここまで優しく厚く力強く、しかも、押し付けがましくなく説得力抜群の歌い方が普通にできる合唱団とはいったいどのように作られるのか、と・・・この合唱団に対しては私はいつも同じように褒めてばかりいるが、上記のような特徴はこの「ドイツ・レクイエム」のような、人間の弱さを隠そうとしない、しかし格調高い作品で最大限に生かされるようにも思う。（あまり褒めてばかりいるのもなんなので。途中で、腕時計チラ見していた人、男声の中にいませんでしたか？いや、袖がなにか気になっただけだとは思いますが（笑）。））
ターフェルは、敬虔に、しかし奔放に歌っている。極めて濃い感傷に彩られてはいるが、決して品を落とすことはない。事実上彼がリードしているようにも見える第３曲と第６曲は、本ＤＶＤの中でも特に見どころになっている。
ボニーは、歌詞というより「言葉」の美しさが伝わってくる、抑制された深い歌唱・・・この曲の題名にある「ドイツ」の意味は、国や民族、あるいはこの言葉からイメージされる他のなにものよりも先に、まずは「ドイツ語」だと思うが、他の共演者以上に（合唱団よりも）、そのことを改めて強く印象付けてくれる。