・ピアノ協奏曲第21番（K467）
・ピアノ協奏曲第25番（K503）
・ピアノ協奏曲第27番（K595）
30MG0165〜6（LP）
POCG9641〜2
1975
その一方で「確かにアバドの指揮は平凡で覇気に欠ける。でも、グルダのソロもそれに負けず劣らず退屈でやる気が感じられない。」と思うのは私だけか。
正直、LPで買った27年前に少なからぬ失望を味わって以来、あまりいい印象がない。「鬼才ピアニスト」と「（当時）新進気鋭の若手指揮者」と「世界を代表する名門ブランドオーケストラ」と、役者はそろっている。客観的にみればみんな上手いしバランスも良い演奏である。録音も悪くない。なのに・・・「聴いていてわくわくしない・楽しくない」のだ。特に第20番と第21番はその傾向が著しい。第25番と第27番はそれに比べればましだが、どの楽章も出だしは「おっ？！」と思わせてくれるのに、その緊張感が続かずにだんだんイージーな演奏になっていくことは全４曲すべてに共通する。
しかも「今」聴けば、こういう演奏スタイルは既に「古い」ように思うのだが、それは「古典的名演」といったポジティヴな印象ではなく、単に「古くさい」と感じられてならない。
この文を読んで、不快に感じられた方がいれば申しわけなく思う。ただ、私は決してこれを世評の高い名盤を故意に貶すことそのものに意味を見出そうという意図で書いているのではないことと、他の多くの方々がこの演奏・録音を高く評価していること自体に異議を唱えるつもりは全くないことは理解していただきたい。
単に、私が、本気で「この”名盤”の価値が理解できない」だけのことである。
（ただ・・・1990年代前半〜中盤頃の「レコード芸術」誌に載ったインタビューの中でグルダはこの４曲の収録中に「アバドのことを退屈な指揮者だと感じてしまった」という趣旨のことを述べていた記憶がある。これは、アバドへの批判とは別に、グルダ自身のこの４曲に関する自己評価が一般的な世評とは異なることを暗示しているのでは？というのはうがちすぎか。）
・・・でも、この20年以上「私なりに」「私のレベルで」でかまわないので、いつかは、この録音を「名盤」だ、と本心から思える日がくることを祈願していることも、また事実である。そして、たぶんこれからも。
・ピアノ協奏曲第12番（K414）
28MG0414（LP）
400 068-2
モーツァルトを弾くにはやや野暮ったいゼルキンのソロ、時に直截に過ぎる音がないわけでもないアバド/LSO。でも、明晰で流麗かつ意欲的な表現にあふれた演奏はそれらの違和感や欠点を補って余りある。
独奏者もオーケストラも指揮者の解釈も、それぞれ個別に比較したらグルダ盤のほうが上、なのだろう。でも「音楽している楽しさ」を聴いている者にはっきりと伝えてくれるのはどっちか、となればこれはもうはっきり言って比較にもならない。
・・・などと言いつつ「第20番」の一番の聴きどころは、突如として「ベートーヴェン弾き」に”変身”して第一楽章と第三楽章のカデンツァに臨むゼルキンだと思ったりもしている（笑）。
一方「第12番」は表面的な華やかさに乏しくそんなに目立つ作品ではないように感じるが、アンダンテ楽章の落ち着いた進行と終楽章の抑制の利いた上品な表現が印象的な演奏。
・ピアノ協奏曲第17番（K453）
28MG0450（LP）
415 206-2
「第9番」・・・ソロイストとオーケストラの奇妙な掛け合いで楽しませてくれる第一楽章がまずは印象深いが、この曲は「隠れ短調」作品。第二楽章で格調高く歌い上げられる哀感をじっくり堪能したあと、終楽章はやや重厚かつ目まぐるしく変遷する楽想を軽快にまとめる。
「第17番」・・・やや諧謔的な楽想が指揮者主導で軽やかに進み、武骨だがシャイな独奏者がその中に自然に溶け込んでいく第一楽章、晴朗なノスタルジアにしっとりと浸る第二楽章をはさんで、第三楽章はオペラアリアを思わせるテーマ（実際、何かの引用だろうか。無知ゆえご教示いただければありがたい）が変奏曲風に展開されたあと、熱いプレストの中で終結に向かう。
・ピアノ協奏曲第23番（K488）
28MG0613（LP）
410 068-2
「第21番」では、意外なまでに軽快にころころ（？）と演奏を進めるゼルキンに聴いているほうも思わず頬がゆるむ。「第23番」はやや明るめの伴奏と微妙な憂いを含んだ独奏者の対比が絶妙。両曲とも一番の聴きどころは第二楽章（これは本シリーズのすべての曲に程度の差こそあれ共通するのだが）。前者における、優しく穏やかな進行にふっと影がさすときのコントラスト、後者の静かな悲しみの中にほのかな、しかし力強い希望を見出すかのような表現、どちらも強く心に残る。
・・・私にとっては、モーツァルトに対する蒙を啓いてくれた、ということのほかにもいろんな思い出があるレコードなのだが、それを抜きにしても今でも大好きな演奏である。
・ピアノ協奏曲第19番（K459）
華やかで豪快でそれでいて品格のある「第25番」も悪くはないが、やや地味な曲ながらも丁寧につつましくまとめた「第19番」のほうが、これらの演奏者には合っているように思う。
・ピアノ協奏曲第8番（K246）
1983
なのでどうしても「第27番」がメインプログラムという感じになるが、モーツァルト晩年独特の完全に澄み切っているとはいえない諦観が極めて美しい音楽で表現されている様子を、ゼルキンは篤実かつ情感豊かに、アバド/LSOはちょっとクールにしかし優しく演じている。この曲も第二楽章が絶品。
「第8番」のほうは・・・悪くはないけど落ち着きすぎというか、もっと快活な、作曲者の若さをストレートに感じさせるような演奏なら良かったのに、という感は否めない。（ただ、定番の有名曲だけでなくこういう曲も網羅しようとした企画はいいと思うし、その意味でも本シリーズが”完結”に至らなかったのは残念である。）
・ピアノ協奏曲第22番（K482）
1985
本ページ「６」と「７」の間は、録音の日程では約１年半（日本盤の初出時期では約2年半）の間隔があいている。なにがあったのかはわからないが、結果的にこの「1年半」は本シリーズとって大きかった気がする。
「第15番」は曲想もあってか「明るく、楽しい演奏」という点では本シリーズ中最高に近い・・・と、87年にこのCDを買ってからずっと思っていたし以前の弊サイトにも書いたのだが、今回このページを書くために久しぶりに聴いてみたら、確かに明るいことは明るいけど、独奏も伴奏もその陰にはっきりとメランコリックな雰囲気を演出しているな、というだいぶ違った印象を受けた。
「第22番」は重心が低く厚みのある、という、その後のある時期のアバドとは対照的？な安定感のある伴奏の上に展開される貫禄の演奏・・・となるが、よく言えば従来以上に指揮者主導、悪く言えば・・・というここで感じた懸念は、次の「８」でより明確になってくる。
・ピアノ協奏曲第24番（K491）
1986
「第18番」は、「７」の「第22番」（どちらも「隠れ短調」）と同傾向の演奏。ただ、指揮者主導の度合いはより高まっている・・・というより、独奏者の「衰え」を、少なからず感じる。
「第24番」も、同じ短調作品と言うことで「第20番」と比較すると、独奏者の「勢い」の差ははっきりしている。かつてはまぎれもなく「協奏曲」の演奏だったのが、このあたりになると正直「アバド指揮の、ピアノ独奏付き交響曲」といった趣が強くなっている。
でも、悲しいまでの美しさを湛えた「第18番」、冒頭のソロで衰えを隠せないゼルキンを、指揮とオケが優しく慈しむかのように包み込んでいく「第24番」、両曲とも「第二楽章が特に聴き応えがある」のは相変わらずである。（特に「第24番」の第二楽章はシンプルな主題で構成されているぶん逆に感銘は深い。）
また、「アバド/LSOコンビ後期〜末期の充実度」を知ることができるという意味で、また別の評価をすることも可能だろう。
・・・このＲ・ゼルキン/アバド/LSOのモーツァルトピアノ協奏曲集は80年代中盤〜後半の私がリアルタイム？で次の新譜が出るのを楽しみにしていたシリーズだった。
ただ、ウィーン国立歌劇場の音楽監督になったことでアバドとLSOの関係は次第に弱まっていくと予想されたことに加え、ゼルキンの年齢を考えると、もう、過大な期待をしてはいけないのだろうか、とも、本ページの「７」「８」が出た87年後半〜88年初め頃には思っていた。
アバド/COEが新たな名コンビとして台頭してきた時期の収録だけあって指揮者と楽団は若々しく勢いがあるが、それでも独奏者の衰えをカバーし切れなくなっているような気もする。この録音が長らくお蔵入りになっていた理由は、新録の組み合わせ相手曲がなかったということだけではなかったのだろう。しかし、いくら「第16番」がニ長調だからといって、本シリーズ最初の録音だった「第20番」（ニ短調）と組み合わせるというのは、正直、酷だとさえ思う。
ゼルキンが元気ならば、このシリーズはアバド/COEをバックにして続いたのかも知れないが、実際にはこの「第16番」が録音の上ではR・ゼルキンとアバドの最後の共演になった。（ゼルキンの逝去は1991年。）
・・・この録音が行われたらしいことは、当時の雑誌の記事に書いてあったのでずっと頭の片隅にあった。しかし上記のように、実際に聴くことができたのは1999年になってから。
そのとき、「このシリーズの新譜が出るのを楽しみにしていた頃」とは、私はどれほど変わったことだろうか。そして「変わった」のは私だけではないのは言うまでもない。
・ピアノ協奏曲第26番（K537）
1992
まず最初に・・・やっぱり、ウィーンフィルはいい。LSOやCOEよりもずっといい。もちろんこれは「アバドが指揮する楽団」としてどこがいいか、とは正直別の話だとも思うが、少なくともこのCDでは素直に「ウィーンフィルならではの美音」を楽しむほうが精神衛生上よろしいかと思う。
ピリスは力強い打鍵にあいまいさのない解釈、ていうか、普通に「カッコいい（笑）」ですね。決してドライな演奏ではない一方でヘンにウェットな感傷的な雰囲気のない点は個人的には好み。客観的にみてアバドとの相性はグルダよりもＲ・ゼルキンよりもいいと思う。ピアニストだけの魅力に限れば「第26番」のほうがより生き生きとしているが、演奏全体のバランスは「第14番」のほうが上、か。
・ピアノ協奏曲第21番（K467）
演奏そのものは「第17番」のほうが面白いが「第21番」では第一楽章・第三楽章ともＲ・ゼルキンのカデンツァが使われているのがポイントの高いところ。ゼルキン本人は何か照れたような弾きかたにも聴こえたが、ピリスはいい意味で客観的にこのカデンツァに取り組み、早めのテンポながらその繊細な独特の魅力をはっきりと表出している。
このページを書くまでピリスとの4曲は過小評価していたが、改めて聴いてみると、古典派作品に対するアバドが「オーセンティックの迷路」に入る（ちなみに、アバドがこの「迷路」から抜け出すのは99年〜2000年のベートーヴェン交響曲全集を待たないといけない）直前の、従来路線での最後の時期にそのベストフォーム・パフォーマンスを示してくれているという等閑視できない録音と思う。
・ピアノ協奏曲第20番（K466）
指揮者と独奏者の組み合わせだけを見れば「１８年ぶり」の「シリーズ第３弾」と言えなくもないが、いや、それはないだろう。
２０００年代の初期〜中盤の一時期は、良くも悪しくも「枯れた」か？とも思わせたアバドだが、近年、というかオーケストラ・モーツァルトを指揮した録音が増えはじめてからは歳を重ねるごとに良い意味で老成から遠ざかっている感があった。本ディスクもその延長線上に位置する演奏と思う。
また、これまでの同楽団を指揮したモーツァルト演奏と比べた場合には素朴な力強さあるいは粗さは希薄になり、より流麗になっているような気もする。
ピリスは90年代に比べると尖った感じ良い意味でなくなり、より聴きやすく充実した音響と演奏を展開している。
・K595・・・モーツァルト晩年の作品にありがちな独特の侘しさは正直あまり感じられない、というか、そういうことには無関係にひたすら淡々と、しかし真摯に楽曲自体の魅力を突き詰めていく、心穏やかになると同時にスリリングな演奏である。
・K466・・・少々ゴツゴツした耳ざわりの、しかし明晰でザッハリヒな演奏。
ともあれ、８０歳を目前にしても「通俗的な”巨匠指揮者”像」に徹底して背を向け続けるアバドの姿勢は、ファンとしては心強いという以上に痛快でさえある。
・ピアノ協奏曲第20番（K466）
２０１３年３月 ルツェルンでのライブ録音。「ライブ録音」を称する正規盤の中では、アバド独特の「前のめりのラッシュ」の雰囲気をかなり濃厚に出している数少ない録音のひとつ。
２０１４年２月初出。結果的に、没後初めての新譜。アバドの初めての協奏曲録音の独奏者は、アバドの最後（たぶん）の協奏曲録音の独奏者と、同じ人だった。
ケース裏面と解説書１２ページに掲載された１９６７年のアルゲリッチとアバドの写真をなんとも言えない気持ちで見てから、聴いてみる。
Ｋ５０３・・・スリムに引き締まったオーケストラの端整な音と、自在な独奏者。やりたい放題というかやりすぎというか、そんな感じもないではないが批判する気には全くならない強い説得力を有し、とにかく聴いていて楽しい演奏。
Ｋ４６６・・・同じ楽団を用いて収録時期も近いピリス盤と比べると、独奏者・指揮者共ともに露骨で刹那的。ただそれらが演奏に独特の緊迫感を与えて
いるとも言え、全般的にエモーショナルで動きも激しい。
「アルゲリッチに煽られっぱなし」のようで、しっかりついていったり一緒になって煽りまくったり、というのは最後まで変わらなかったようで、寂しいが、なにか、安心できるＣＤだった。
・ヴァイオリン協奏曲第7番（K271a）
1995
（なお、その後のギャレットは、みごとなイケメンヴァイオリニストに成長しているようです。）
クリスト（Va）
穏健で品があって独奏者も上手でバランスもよくて・・・よく言えば室内楽的な好ましい雰囲気があるのだけど、悪く言えばあまりにもおとなしすぎるというか覇気に乏しい演奏。良し悪しは別にして、聴いていてあまり楽しくない。
・ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲（K364（320d））
00289 477 7371
ヴァスキエヴィチ（Va）
この協奏曲集は基本的にはカルミニョーラの自在かつ貫禄十分な妙技を楽しむべきＣＤ。
「第1番」「第2番」は独奏者主導の演奏で指揮者は一歩引いた感じだが「第3番〜第5番」になると指揮者と独奏者が（いい意味で）対峙した中に生まれた緊張感の中で、曲の完成度の違いもあってより充実した演奏が展開されている（「第5番」終楽章の例の「トルコ風」のところは演奏者がそろいも揃って悪乗り？しているかのようなほんとに「楽しい」一瞬（笑））。
一方「Ｋ364」は・・・上品で慎ましい演奏。というより指揮者がもっと積極的に引っ張っていこうとしてもいいのでは？前５曲に比べてテンションが低いのが気になる。曲との相性が悪いのか？とまで思わざるを得ない。
・ファゴット協奏曲K191（186e）
・オーボエ協奏曲K314（285d）
1983
1984
エリオット（Fg）
スティル（Ob）
この３曲のあとにハイドンのトランペット協奏曲（ハーセス）を併録している。独奏者は４人とも（当時の）シカゴ交響楽団の管楽器の主席奏者。録音時期を見るとマーラーの「第１番」「第７番」やベルリオーズの幻想交響曲などと重なっているが、それを知ると、大曲録音の合間に息抜き？したようなリラックスした雰囲気を感じる演奏でもある。ユーモラスで余裕綽々のクレヴェンジャー、真面目にとぼけたようなエリオット、ドライかつ軽妙なスティル、と独奏者はみんな（ハーセスについてはハイドンのページで書く）ほんとに「楽しい」し、アバドの指揮も程よくこなれて実にいい感じ。
アバドの代表的名盤などでは決してないが、若い世代のアバドファンや最近になってこの指揮者に関心を持ち始めた方には、機会があれば是非聴いていただきたいCDのひとつである。
・フルート協奏曲第1番（K313）
・フルート協奏曲第2番（K314）
ラングラメ（Hp）
ところで・・・このページを読んでいただいている奇特？な貴方にうかがいます。
K314はオーボエ（ハ長調）と、フルート（ニ長調）と、どっちが好きですか？（私は88年のアバド/COE来日公演で聴いたときの思い出が大きいので、オーボエ（そのときの独奏者はもちろん？ダグラス・ボイド）のほうです。）
初出（99年12月）の頃は個人的にいろいろあったのできちんと聴けないでいたCDだが、第一楽章の冒頭がすごく引き締まった響きだったのを聴いて、これは「あたり」かも、と思い最後までそれは裏切られなかった。美しくも哀しく澄み切ったＳ・マイヤーのバセットホルンに、アバド/ベルリンフィルも優しく応える第二楽章が一番の聴きどころ。終楽章は感傷的なところのないある意味さばさばした演奏だが、それが逆に曲そのものの魅力を生き生きと伝えてくれている。
・オーボエ協奏曲（K314）
・アリア ヘ長調（K368、A・マイヤー編曲）
・アリア ヘ長調（K577、A・マイヤー編曲）
・アンダンテとロンド ニ長調
（K271a/271i、A・マイヤー編曲）
（以上、モーツァルト）
レブルン（1752−1790）
・オーボエ協奏曲第1番 ニ短調
アバドの指揮は、ECユースO．時代から縁のあるこの独奏者を穏やかにサポート、というより「枯淡の境地」といえるほどに澄んでいる。
メインの曲はモーツァルトとレブルン、それぞれのオーボエ協奏曲だと思うが、K314はあまりにも穏やかすぎる演奏になってしまったかも知れない。
一方、レブルンのほうは、Ａ・マイヤーのまろやかな音色がやや地味ながら品のある楽想とみごとな調和をみせているだけでなく、アバドもこの曲ではいい意味で「裏方に徹してない」のもまたいい。
ただ、モーツァルトもレブルン（ごめん、このCD以外にこの人の曲は知りません）も悪くないけど・・・正直、この顔ぶれでR・シュトラウスのオーボエ協奏曲をやってくれないか、と本気で思う。いや、実演ではやっているかもしれないが、ＣＤで出ないものかと。
（第1番K412/514、第2番K417、第3番K447、第4番K495）
2006
2007
しかし「若々しい」というよりは渋味と貫禄を感じさせ、それでいて重くはない、というか、通俗的な「巨匠らしさ」などは良くも悪しくも皆無の、多少不思議な演奏とも言える。
・フルートとハープのための協奏曲(K299）
ズーン（Fl）、ベルモンド（Harp）
2曲とも、必ずしも緻密とはいえないが独特の
また、両曲とも、アバドのこれまでの多くのモーツァルト協奏曲録音にも増して「第2楽章」が極めて印象深い演奏でもある。
・K297b・・・アバド初録音。「協奏交響曲」でもK364よりは相性はずっといいように思われる。独奏者・指揮者・楽団とも大変穏和で優しい、のだが、快活な音響の割には「良い意味で若々しさを感じない演奏」（上記のホルン協奏曲集と共通する特徴）。深い侘しさに彩られた、というよりなにか達観したかのような雰囲気に全編が覆われた演奏ともいえる。
・K299・・・上記「16」のEMI盤と比べると独奏者も楽団も変わったせいか全体的に慎ましやかな、でもまとまりのいい演奏。またK297bと同様の雰囲気はこの曲にも強く現れている。
・フルート協奏曲第2番（K314）
・ファゴット協奏曲（K191）
2009
ズーン（Fl）
サンタナ（Fg）
・K622・・・作曲者と演奏者、演奏者と聴いている者、それぞれの「距離」がとても「近く」感じられる。底知れず穏やかで優しく、そして深い演奏。特に第2楽章が素晴らしい。
・K314・・・基本的にはK622と同傾向の演奏だが、管弦楽の音がやや直截でうるおいと余裕に欠けるのが残念。（「独奏者と聴いている者」との「距離」はK622以上に「近い」ように思うので余計に残念。）
・K191・・・朗らかで軽妙な独奏者と、ソリッドだが品のある管弦楽との素敵な共演。
この楽団とのモーツァルト/管楽器協奏曲集（上記21〜23）にはオーボエ協奏曲としてのK314は含まれていなかったことを今更ながら思い出した。
録音の状態は、上記21〜23より良好（収録場所の違いもあるのかも）。演奏は上記20よりもオーケストラの音は瑞々しく流れはスムース。独奏は、やや硬質な音が軽やかに舞うかのような心地よさ。
ただ、音は快活なのだけど、演奏は恐ろしいまでの寂しさを持っているのが不吉なまでに強い印象を残してくれる、と、あえて言っておく。
EX92T64
このK488は・・・演奏は独奏者・指揮者とも快活でアグレッシブ。基本的に速いテンポでぐいぐいと進めていくが、第二楽章はこくの深さに欠けるような、終楽章は「速すぎる」ような気がするのも事実。でもこれは「まあ、二人とも若かったから」である意味済んでしまう程度ともいえる（その「若かった指揮者」のほうが、この1〜2年後になぜあんな退嬰的な（ry ））。
録音はモノラル。ピアノの音がオーケストラに比べてやや引っ込み気味で、かつ、やや曇った感じの音になっているが、全体的に特に聴きにくいというほどでもない。
TH047（CD−R盤）
いずれにせよこのCD-Rで聴く限りは録音のせいもあると思うが、後のLSOとのDG盤に比べると全般的にアバドの指揮はやや生硬だしゼルキンも多少潤いと暖かさに欠ける気がする。が、曲が進むにつれて両者とも熱がこもってくる様子が克明に伝わってくるのはライヴならでは、だろう。
独奏と指揮のバランスが良いという意味では聴きやすい演奏ではあるが、よほどのアバドファンで無い限りは、普通にDGの正規録音を聴いてお楽しみいただくほうがいいと思う。
なお、このCD-RにはR・ゼルキン/クーベリック/バイエルン放送SOとのベートーヴェン・ピアノ協奏曲第2番（1977年10月のライブ）が併録されているが、録音はこちらのほうがはっきりしているだけでなく厚みと安定感のあるクーベリック指揮の伴奏の上で名うてのベートーヴェン弾きだったゼルキンが生き生きとした演奏を展開しており、Ｒ・ゼルキンのファンとしては聴いて得した、というところであった。
この2人らしく？ソリッドでアグレッシブ。ポリーニ独特の唸り声もご愛嬌。ただ、演奏自体は緻密で繊細なのだと思うのだが、聴こえてくる音楽がやや大味なことは否めない。
この2人によるモーツァルトの協奏曲の正規録音がなかったことは、結果論ではなく、妥当だった、と思う。
アバド/BPで古典派の作品の録音というとあまり良い印象のなかった時期の演奏だが、本録音はLSO時代のアバドを髣髴とさせる積極的という以上に攻撃的な指揮と薄さを感じさせない楽団の響きが実に良い感じで、粒立ちのよい快活な独奏者の演奏ともども溌剌とした好演を形成していると思う。
ＵＲＣ0044〜45（ＣＤ−Ｒ盤）
非正規盤のため音の状態はそこそこだが、厚みのある落ち着いた音のオーケストラ。堅実で明晰な演奏の独奏者。バランスもよく安心して聴ける。
アバドとベライアとの共演自体は少なくないはずなのにこの組み合わせの録音は少ない中では貴重な存在。
ただ、演奏自体は決して悪くない、というかむしろ良いのだが、なんていうか、あえて、この曲を取り上げたことの必要性や説得力は、あまり強く伝わってくるわけでないのも正直な感想である。