20PC2029（LP）
412 251-2
LP時代のジャケットの、二人の肖像画ふうのデザインがカッコよかったのでここに掲載。
ブレンデルの深く明晰な、デリカシーにあふれた独奏は大変印象深いが、アバド/ＬＳＯは・・・悪くは無いけど、当時のこのコンビとしてはちょっと大人しすぎる、というか独奏者に追従する感が強く積極性に乏しい指揮と演奏。
このシューマンだけでは、正直ちょっと・・・なのだが、一緒に入ったウェーバー（その感想は別ページで）も合わせて考えれば、
アルバム全体としてはそれなりの好評価はできると思う。
上記のブレンデル盤に比べれば、独奏者指揮者ともずっとロマンティック、というよりエモーショナル。緩急の調整も自然な流れ。
ただ、両者とも音は正直言って粗め。
この両者による70年代後半のブラームスやバルトークも、聴きよう（言いよう）によっては「粗さ」はあったかもしれないが、前者にはそれを補って余りある若さと情熱と勢いがあったし、後者には圧倒的なテクニックと強靭さがあった。
でも、このシューマンは・・・正直、そのころに比べると、両者とも「甘く」なったな、という感じが否めない。
同時期（80年代末〜90年代初め）のアバドのCDはもちろん、ポリーニのCDもそれなりに聴いていたつもりだが、それぞれの単独のCDはともかく「この頃の、この両者の共演のＣＤ」には私は、なぜか、良い印象を持てないでいる。（このシューマンは、92〜93年のベートーヴェン協奏曲集よりはずっと良い演奏ではあるけど・・・）。
ポリーニ/アバドのコンビは、少なくとも正規録音に限れば、70年代の3枚を、80年代以降は上回ることはできていないのではないか、と、あえて言っておく。
（60年代末〜70年頃の名演とはまた違った、歳を重ねただけのことはある素敵な録音を90年代以降に実現できているアルゲリッチ/アバドのコンビとは対照的である、とも。）
POCG1641
ヒンターマイアー、ピタ、シュミット、
ウィーン国立歌劇場合唱団
ややおとなしめのシューベルトの3曲とは対照的に、このシューマンはドラマティックな迫力に満ちた作品を格調高く演奏し、本アルバム中では最も聴き応えがある。
SRCR9792〜3
ボニー、ヴォトリヒ、ヴェルミヨン、
ポシュナー＝クレーベル、グレアム、
ブロホヴィッツ、ペータース
テルツ少年合唱団
スウェーデン放送合唱団/
エリック・エリクソン室内合唱団
真摯で壮大で深い曲だが、親しみやすいメロディーもまばゆいばかりの色彩感あふれるオーケストレーションもなく、しかも、最後は静かに終わるし、はっきり言ってとっつきやすい曲では全くない。
ただ（CDの解説書でも喜多尾氏が若干触れているが）「ファウスト」というテーマ・題材に対するシューマンの（繰り返すが）真摯さあるいは畏れがはっきりと反映された作品なのだな、という雰囲気は、恐らくはそれをストレートに伝えようとした指揮者をはじめとする各演奏者の熱演によって明確に伝わってくる。
独唱者は皆高レベルだが、中でも事実上「主役」格のターフェルの、豊かな表現力を持つ自らの美声を状況に応じみごとに使い分けたクレバーな歌唱が光る。女声陣では出番の多いマッティラとボニーが相応の名唱。
スウェーデン放送合唱団/エリック・エリクソン室内合唱団の均質性の高く深い声質と力強い歌唱の素晴らしさは言うまでもないが、このCDではテルツ少年合唱団も負けず劣らずのまとまりのよいピュアな声質で脇をしっかり固め、場面によっては”主役”をしっかりと演じきる。
正直、これらの合唱（団）を聴くだけでもこのCDを持つ価値はある、と言っても過言ではあるまい。
・・・ノーマン・レブレヒトはこの、アバド/BPの「ファウスト」からの情景（およびムソルグスキーの「ボリス」）がどのような背景のもとで企画・録音され、それがソニー・クラシカルにどんな影響を及ぼしたかについて、彼一流の皮肉な言い方で触れている（レブレヒト1996『When The Music Stops』の日本語版（音楽之友社2000）の358〜359ページ）。そこに書かれていることがどこまで本当かを判断する材料は私にはないが、アバド/BPとソニーとの関係がはっきり言って竜頭蛇尾的なものだったことを思うと、全くの作り話が書かれているとは個人的には受け取れない。
ただ、少なくともその2曲の録音に関しては、私は素直に、ソニー・クラシカルには感謝している、とはっきり言っておく。
・コンツェルトシュトゥック ト長調
（序奏とアレグロ・アパッショナート）作品92
・コンツェルトシュトゥック ニ短調
（序奏と協奏的アレグロ） 作品134
SK64577
1997
ペライアとアバドの共演も決して少なくないはず（この2人がCOEと来日した91年3月の公演に、チケット確保もできていたのに結局行けなかったのは今になってみれば誇張無しに生涯の痛恨事）だが、正規録音はもしかしたらこの1枚だけ、だろうか。
まあ、それはともかくとして。
・ピアノ協奏曲 イ短調 作品54
この曲のアバドの4種類の録音の中では文句なしに一番の演奏。
一言で言えば「ペライア最高！」。力強い打鍵に裏付けられた濃厚かつウェットなロマンティシズム。しかしそれに決して溺れるのことのないダンディな明快さと信じ難いほどに的確な表情付けとデュナーミク調整。
アバド/BPもそれに一歩も譲らず（当時のこのコンビとしては異例の）厚い弦、多彩な管の響きをベースに、全曲を通して渋味に溢れた繊細極まる演奏で応える。
情感では第1楽章が、独奏と管弦楽のコンビネーションでは第2、第3楽章がそれぞれ優れているが、
「とにかく全体的に凄い」ので、できるだけ多くの人に聴いていただきたい録音・演奏のひとつである。
・作品92
作品54の2年以上あとの録音だが、独奏者・指揮者・管弦楽とも演奏の緊密さは基本的に変化していない。
ただ、良い意味でリラックスした、開放感のある演奏。その中で独奏者の上品な躍動感と、管弦楽の人懐こい（？）音色が心に残る。
・作品134
作品92と同時期の録音。暗く、しかし格調高い曲想を、独奏・管弦楽とも温かめの音色で彩る品のある演奏。
ピアノと木管の関連などに作品54のピアノ協奏曲を連想させる場所もあるのだが、それも含めて、本アルバムの最後を飾るに相応しい選曲でもあり演奏でもある。
（ところでこの曲、「夕○け○やけの、○とん○〜」と歌いたくなってしまう主題があるのですが、もしかしてそれで有名な曲だったりしますか？）
ただ、楽団は・・・かつて（シューベルトやハイドンの交響曲の頃、あるいはピリスとのモーツァルトの協奏曲の頃）のアバド/ＣＯＥほどの生き生きとした躍動感は感じなくなっている。録音のせいもあるような気もするし、また、この９７年頃の録音に顕著な「アバドの疲労感」のせいもあるような気もするが。
また、演奏の内容とは関係ないが・・・・レーベルも楽団も独奏者も違うとはいえ「同じ指揮者で同じ曲」のCDがそれほど日をおかずに出てくる（上記のペライア盤と発売時期にそんなに差は無かった）ということには、当時少なからず疑問を感じた。
このシューマンもそうだが、９０年代後半のアバドの録音には、企画やレパートリーの一貫性・計画性の乏しさが正直感じられる。
９０年代前半〜中盤のアバド/BPの活動が（演奏や録音に対する評価は別として）明確なテーマ性を持って（あるいはそういうものであることを標榜して）行われ、CDもそれに連動してリリースされていたことと比べるとなおのこと、９０年代後半の「場当たり感」は際立つ・・・これはCOEとのCDだけど（苦笑）。
（その流れを断ち切った、という意味でも、BPとのベートーヴェン交響曲全集はアバドの活動歴の中では画期的な存在感があるのだが、それはまた別の話になるのでここではこれくらいで。）
2003年以降のルツェルン祝祭O．のDVDやメンバー表を見ればわかるようにアバドとの共演も多いが、
「グートマン独奏/アバド指揮」での「協奏曲」の正規録音は、2011年6月現在この1種類だけである。
基本的に柔らかく、しかし重厚な音色。優美な、しかし濃い表情付けに彩られた独奏者貫禄の演奏に引っ張られてマーラーCOが躍動する。
そして「何もしていないように思わせて実はちゃっかりまとめている」というアバド伴奏指揮の至芸？が久々に典型的に発揮された名録音。
・・・両者の年齢を考えると正直厳しいところもあるのかもしれないが、このコンビ（マーラーCO．含む）で「ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲」録音してくれませんか？
・「マンフレッド」序曲
・「ゲノヴェーヴァ」序曲
昔のアバドがシューベルトやメンデルスゾーンの作品で聞かせてくれた明朗闊達さや爽快感はここには、そんなに、ない。それは作曲家の特徴の違いという以上に、以前とは比較にならないほど恣意的な解釈と主情的な演奏を、しかし品位と端整さを失うことなしにするようになった指揮者の変化のほうが大きい気がする。（同じ楽団を使った他のＣＤとは録音会場が異なる（こっちのほうがずっと良い）のもかなり影響している気もするが。）
ライブ収録ではない「マンフレッド」序曲は、録音としての完成度も演奏の緊張感も高い。が、最近のアバドの自在の境地（？）を堪能できるのは交響曲第２番。中間楽章の不思議な遅さと晦渋な雰囲気は、でも、聴く人を選ぶのかも知れない。また「ゲノフェーファ」序曲の切なくも迫力があり、かつ極めて柔らかい演奏も「最近の」アバドでなければ聴けないものだと思う。
この指揮者と楽団によるシューマン作品の録音がこれからも出てくるのを・・・少なくとも私は、楽しみにしていた。
日本盤の初出は２０１３年６月２６日（彼の７９歳の誕生日）。でも、ＣＤとしては、結果的にこれがアバド生前の最後の新譜になった（と思う）。
帯には「アバド初のシューマン交響曲録音」とはあるが「アバド、シューマン交響曲全集第一弾！」などという、昔ならよくあった表現ではなかったことが、あとになってみると、いろんな意味で、なんとも言えない気持ちにさせられる。