429 527-2
「初めてのチャイコフスキー」が、これだ、と知っても「あ、そう」で済むくらいの話でしかない（苦笑）。
数少ないニュー・フィルハーモニアとの録音。同時期のＬＳＯとの録音に比べると楽団の音色はやや明朗（というか軽め）なように思う。リズム感と弱音のデリカシー（特にスケルツォと終楽章）にポジティヴなアバドらしさをはっきりと感じるものの、音楽の進行や各パート間のバランスのとりかたにややたどたどしさを覚えるところもなくはなく、この曲に関しては後年のＣＳＯ盤を採りたい。
なお、私が持っているCDは、本ページ「６」の交響曲第4番とのカップリング。
20MG0471（LP）
POCG2749〜51
その後の再録音が2種あるにもかかわらず、このLSO盤の存在価値は決して失われていない。
20MG0044（LP）
427 220-2
いずれにしてもCDでは1枚半・LPでは2枚分しかないボストン録音中のひとつ。
さすがに録音の音質は古さを隠せなくなかったが明晰な音響と直截でかなり主情的な音楽作りの中で的確に各場面を描き分けた名演。これも2種の再録音があるが、それらに対し十分に独自の存在感を持っている。
20MG3012（LP）
419 067-2
ミルシテインはソリッドな響きで品格のある優美な演奏を展開している。感傷性はよい意味で低く、アバドとの相性は決して悪くない。
鄙びた雰囲気が濃厚にあったこの頃のウィーンフィルの音色も、独奏者と合っている。
協奏曲録音の多いアバドだが、年齢的にも大先輩に当たる往年の巨匠との共演は、Ｒ・ゼルキンとのモーツァルト協奏曲集を除くと意外に少ない。（非正規盤では、ほぼ同時期の収録でオイストラフとのブラームスがあるが。）
基本的には「ミルシテインの」レコード・CDと思うが、「アバドの」としても貴重な存在。
20MG0472（LP）
POCG2749〜51
やや速めながら適切なテンポ設定と心地よいリズム感。伸び伸びと歌い上げられるチャイコフスキー一流の甘美なメロディの数々。繊細な弱音に込められた深い叙情とメランコリー。強奏部分での実に上品なしかし激しく感傷的な音響と表情付け。全曲を通して間然するところのない素晴らしい演奏だが、特に第２楽章のセンスの良さと第３楽章のリズムとデュナーミク調整の巧妙さは癖になるほど魅力的。かつ、アバドがウィーンフィルを相手に「全く遠慮していない」という実は希少な演奏。
なおLP・CDとも解説は宇野功芳氏。基本的に同じ趣旨の文章だが、特にCDのほうでは「アバドの最高演奏のひとつ」との見出しで絶賛している。（宇野氏は「平素は徹底的に酷評する演奏家」でも「この演奏に限れば、素晴らしい」と判断したときは率直な賛辞を惜しまない人と私はお見受けしてしている。他の一部評論家のように、どんなときにも得意げにイヤミを言ったり褒め殺しをしたりして悦に入っている下品な恥知らずと同列に論じるのは宇野氏にあまりにも失礼であろう。）
20MG0470（LP）
POCG2749〜51
部分的には、第2楽章での管楽器の音色・第3楽章のピチカートの微妙な音色とデュナーミク調整が愉しい。
・・・このとき、アバドによるチャイコフスキー交響曲「全集」の企画があったのかどうかはわからないが、結果的にはこの「第4番」で打ち止めになった。
後年の、実際に全集になったCSO盤（ソニー）とは逆に、この60〜70年代のチャイコフスキー交響曲は後になるほど明らかにいい演奏になっているので「全集」にならなかったのはファンとしては残念である。
・交響曲第2番
32DC497
金管の迫力と弦の重厚さに象徴される楽団の確かな技量に支えられて明晰で爽快な演奏が展開されていく・・・が、正直、録音が、なにかこもったような感じがするのが残念。
・「交響曲第2番」：
ニューフィルハーモニア盤と比べれば、楽団の技量・演奏のスケールの大きさに説得力・細部の繊細な描写と全体的な構成力の矛盾のない結合、いずれも圧倒的にこのＣＳＯ盤のほうが上である。
録音で聴く限りはアバド/CSOの全盛期は1983年頃と思われるが、このシリーズが始まった時期はまだその余韻がはっきり残っている。
なお、このＣＤ（国内盤初出時）の解説書には英文で以下の記載がある。
”Maestro Abbado and The Chicago Symphony Orchestra dedicate this recording to the memory of John S．Edwards．”
・交響的バラード「地方長官」
32DC680
・「交響曲第5番」：
表面的な音響の華やかさや鮮明さは「２」のLSO盤よりもむしろ抑制されているかもしれない（録音のせいもあるかも）。しかしその一方で、より深いところからの作品への理解と共感が伝わってくるかのような演奏。CSOの高い技巧もそれに大きく貢献している。特に第2楽章での各メロディーを思い切りロマンティックに歌わせながらも品を落とさない表現はこの指揮者と楽団の美点を端的に示したものといえよう。
なお、個人的にはこの交響曲で一番「グッと来る」ところは第4楽章の冒頭で、第1楽章の主題が再現されるところなのだが、アバドの3種の録音でそこが最も「感動的」なのは、私にとってはこのシカゴ盤である。
・「地方長官」：
基本的には「メジャー作曲家のマイナーな作品」に対する「アバドの法則」が発動した好演。
解説を読むと、この作品の元になったミッキエヴィッツ（1798〜1855、ポーランド人）の詩のあらすじが凄い（「地方長官」があまりに惨め過ぎる）のだが、演奏もそれに合わせて？当時のアバドにしては結構露骨と言うか露悪的なもの。美麗なメロディーや豊かな情感を期待してはいけない作品かも知れないと個人的には思うが、終曲直前の、交響曲第6番第1楽章を髣髴とさせる一場面に、確かに「チャイコフスキーらしさ」を感じる。
F30G20020
はっきり覚えていないが、この録音よりも少し前に、ポゴレリチがカラヤンを激しく批判して、予定されていた両者の共演（この曲での）が直前でキャンセルされた、という話があったような気がするのだが。
ともあれ、解説書にあるポゴレリチ自身の発言から、引用させていただく。
「（前略）私の目標はチャイコフスキーが書いたピアノとオーケストラの心からの対話を示すことである。（中略）ピアニストは、ただ幻惑的な効果だけを求めてはならず、オーケストラと対等であることを認めなくてはなるまい。（中略）私はこのやり方で私の見解に快く同意してくれたアバドとオーケストラに感謝し、すべての器楽奏者がベストを尽くしてくれたことに感謝している。」
ポゴレリチとアバドの共演盤はこれが2枚目だ（そして3枚目以降はない）が、ショパンの協奏曲第2番を聴いてもこのチャイコフスキーを聴いても、よくも悪しくも「ポゴレリチと共演できる指揮者」は、そんなに多くはないだろうな、とだけは思う・・・。
ただ、そういうことを抜きにしても、普通にスリリングで迫力ある、しかも叙情性とデリカシーにあふれた演奏である。正直、独奏者主導とは思うが、この独善的で奔放で力強いピアニストに「煽られっぱなしにならない」で指揮者とオーケストラがしっかり対峙しているからこそ成立した・・・言い換えれば、ポゴレリチの強烈な個性・アバドのキャパシティ・LSOのレスポンスの良さが、結果的にせよみごとに鼎立した稀有な名盤と言っても差し支えないだろう。
・スラヴ行進曲
32DC5003
本ページ「５」のウィーン盤よりも、楽団の技量と音色の洗練度は高い。その上で指揮者もとても真摯にとりくんではいる・・・が、ウィーン盤を名演たらしめていた激しくひたむきな若々しい熱情は、どこに行ってしまったのだろうか。
また、「７」「８」以上に録音が「こもった」感じなのも困りもの。
・「スラヴ行進曲」：
録音が冴えないのが残念だが、同じCDの「第6番」よりはるかにいい演奏。ほの暗くも激しい情熱が楽団の高い技巧と指揮者の的確なコントロールと相まってしっかりと表現され、最後はアバドらしい前のめりのラッシュで締めてくれるという心にくい演出に拍手。
・幻想序曲「ロメオとジュリエット」
30DC5180
録音はだいぶよくなっているものの、残念ながら演奏の傾向としては、またウィーン盤との比較においては、このシカゴとの「第4番」も「第6番」と同様の性質があると言わざるを得ない。表面的には美しく整っているのだが。ただ、「10」の「第6番」を聴いたときほどの期待はずれ感はなかった、とも付け加えておく。
・「ロメオとジュリエット」：
濃厚でロマンティックな音色・劇的な解釈と展開に心躍る好演。アバド/シカゴのチャイコフスキー交響曲全集は、各交響曲よりも「附録」みたいに入っている管弦楽曲のほうがいい演奏、というCDのほうが多いのだが、これはその最善の例。ＬＰ時代であればチャイコフスキーなら「交響曲1曲でLP1枚」が普通だったはず（本ページ「1」「2」「5」「6」参照）で、CDならではのカップリングが結果的に成功したと思う。
・大序曲「1812年」
SRCR8516
やはり録音が重く冴えない感じだが、品のよい流麗なスタイルで軽快なリズム感を前面に出した解釈は決して悪くはない。ただ本シリーズ初期の「第2番」や「第5番」の頃と比べると、演奏の密度というか集中力が薄くなっているのでは、という疑念は拭えないのも正直なところ。
・「1812年」：
私は、この曲は「○カみたいな」ではなくて「バ○そのもの」であり（悪口ではない。念のため）、それ故、ケレン味たっぷりの胡散臭さ満載の解釈でないと絶対に楽しめないと思い込んでいる。
だから、絶対、アバドには合わない曲（笑）というか、そもそもアバドはこの曲ははじめから取り上げないのでは？と思っていたので実際にこれが出てきたときにはびっくりしたが・・・予想通りというか危惧したとおりというか、なんとすっきりした爽やかな演奏かと（苦笑）。
大砲の音が入ったあたりからは多少なりとも悪乗りしているのが救い？だが、全体的には「アバド３大奇演のひとつ（あとの２つはドミンゴ主演の「セヴィリアの理髪師」と、いわゆる「ソニーの第９」かな）」と言わざるを得ない。
・バレエ組曲「くるみ割り人形」
SRCR8814
「第3番」と同様の演奏だが、オーケストラの響き・音色はこちらのほうが落ち着いて安定感がある（曲の完成度も高いのかもしれない）。
・「くるみ割り人形」：
このCDの場合はこっちのほうがよほど「有名曲」だと思うが、穏やかで優しく愉しい演奏・・・小賢しいことを言うのはやめて、小学校の音楽室で最初に聴いたときの・・・「こんぺい糖の踊り」や「あし笛の踊り」の不思議な響きに魅かれ、「トレパック」に心躍らせ、「花のワルツ」にひたった日のことを思い出そうではないか・・・。
なお、「チャイコフスキー交響曲全集」の最後の１枚になったこのCDが、2011年1月現在では「メジャーレーベルから普通に市販された」ものとしては、アバド/シカゴの「最後の」録音になっている。
・交響曲第6番
00289 477 9111
（「ザルツブルク祝祭大劇場50周年記念盤（25枚組）」のＣＤ２２。）
1994
・「テンペスト」：
輝かしい音色で展開されるゆったりとした明朗な演奏。劇的な高揚も十分。「7」のCSO盤よりもエキサイティング・・・なのだが、ややきめが粗い感じがするのと強奏部分で音がにごりがちになるのが少々残念。
・「交響曲第6番」：
これを正規盤化してくれた関係各位に心から感謝！
彫の深い、という以上に「人間くさい」音作り。旋律の歌わせ方も間のとりかたも、微妙なテンポの揺らし方も、露骨なまでに感情的ながらも、決して品格は失わない貫禄の演奏。
「10」のシカゴ盤は一体なんだったのか、といいたくなるくらい、「５」のウィーン盤の延長線上にある解釈。
・・・それでも、アンサンブルの精度の違いと、若きアバドのひたむきさの魅力とによって、私はやはりウィーン盤のほうを採る。
ただ、「正規盤化」されただけの価値は十二分にある演奏である。単独で発売されるのはあまり期待できないかも知れないが、はっきり言ってアバドのファンならば「ほかの24枚は聴かなくてもいいからこの「悲愴」のためだけにこのセットを買っても損はしない」演奏と思う。（あくまで私個人の意見です。また「買って聴いてみたけどそれほどでもなかった・・・」という場合には、私を怒る時間があれば、他の24枚をじっくりお楽しみいただいたほうがいいと思います。）
SRCR9633
シカゴ盤ではすべて靄がかかっていたかのようなソニーの録音もここでは全く問題なし。それも含めて「レコード」としての完成度は、収録時期の近い上記「14」の「第6番」をはるかに上回っているのだが、「演奏」の完成度と言うかそこから受ける感銘は、残念ながらこの「第5番」のほうがずっと・・・と言わざるを得ない。楽団の機能は素晴らしいし各パートの音色の美しさも出色。そこだけをみれば「2」のLSO盤も「8」のシカゴ盤も絶対に敵わないのだが、音作りも音楽作りも、なにか、くどい、というか説明的すぎて煩わしいのだ。「14」の「第6番」との比較で言えは、そっちの外面的な激しさは内面的な必然性を持って聴いている私に深く突き刺さってきた。でもこの「第5番」ではアバドらしくもなく、外面を表面的に整えること「だけ」を、大向こう受けする外面的な効果「だけ」を狙いすぎ、というのは厳しすぎるか。
POCG9770
この顔合わせで、この曲で、つまらなかったらどうしてくれよう、だったが・・・大丈夫である。いや、期待以上の素晴らしい演奏である。
特に第2楽章は、独奏者・指揮者とも歪んだ時空を自在に操るかのような異次元の快演。
「９」のポゴレリチ盤もすごくいいし個人的にはそっちが好きなので正直悔しい気持ちもあるが、これが相手では、
「大人と子どもの差だな」と言わざるを得ない。
また、アバド/ベルリンフィルのアルゲリッチとの共演盤は（60年代末のも含めて、だが）圧倒的な名演ばかりである。
周知のように、これ1曲だけだとCD1枚には短すぎる演奏時間だが、この演奏の場合は、下手にほかの曲を入れないCD作りは完全に「正しい」と思う。心して聴くべきである。
SRCR2259
チャイコフスキーの協奏曲だけだならば、下のヴェンゲーロフ盤よりも早い時期の録音なのだが、日本盤の初出は1998年の夏になってからだった。
ショスタコーヴィチのほうは別ページに長々と書いているので、ここでは主にチャイコフスキーについて。
独奏者の軽快かつ繊細な演奏は当時のアバド/ベルリンフィルには合っている。故に演奏もレコードとしても、まとまり・完成度は下記のヴェンゲーロフ盤よりもずっと高い。後の楽章になるほどノリがよくなって来るのもある意味ライヴならでは。ただあまりに過不足なさ過ぎるというかよくも悪しくも「名曲の普通の演奏」という感じもなくはなく、同じCDに入ったショスタコーヴィチの演奏の冷徹な緊張感と比較すれば、少なからず物足りなさも残る。
4509-90881-2
・・・しかし、別のレーベル（しかもどちらもDGではない）と別の独奏者で同じ曲をこれだけ近い時期に録音した、という陰にはどんな事情があったものか、といらぬ詮索をしたくもなるが・・・
ともあれ、ここではとりあえずチャイコフスキーについてだけ書く。
一言でいうと、指揮者・独奏者・オーケストラのバランスがあまり良くない。
彼のファンの人にはごめんなさない。少なくともこの演奏に限れば、ヴェンゲーロフのソロが、物理的な動きではなく音楽の流れとして「重い」ように私は思う。それはチャイコフスキーらしい濃厚な憂いを帯びたロマンティシズム、と言えなくもないが、いずれにせよそういう彼の独奏は、よくも悪しくも「軽めの」アバド/ベルリンフィルとうまく合っていない。
逆に指揮者に対して厳しい言い方をすれば、ソリストの良さを生かしきれていないアバドらしくもない演奏、ということもなるだろう。
（なお、グラズノフのほうはもっといい演奏だが、それはいずれ別ページに書きたい。）
・スラヴ行進曲
・幻想序曲「ロメオとジュリエット」
・大序曲「1812年」
POCG10183
1995
1996
このCDも出てきたとき「なぜここでチャイコフスキー名曲集なのか」がよくわからなかったしそれは今もわからない。
でも、素直に聴いてみれば、決して悪いアルバムではない。
・「テンペスト」：
結果的には「14」の直後の収録となった。こっちも「ライヴ」だが初めからCD化を前提としたものと思われ、ザルツブルク盤よりも抑制されたしかし品のある演奏が適切な音響で展開されている。
・「スラヴ行進曲」：
「10」のシカゴ盤よりも派手で華やかに彩られた演奏。録音も鮮明。ラストの重厚なラッシュがまたカッコいい。
・「ロメオとジュリエット」：
これも実に華麗な演奏だが、録音も含めて派手にやりすぎた感もなくはなく、個人的にはやや抵抗感を覚える。
・「1812年」：
・・・まさか、アバドがこれを２回も録音しようとは。いや、それでよかったのだが。
「12」のシカゴ盤に比べれば「○カそのもの」にはなり切れてはいないものの、かなりの程度「バ○みたい」にはなっている。つまりこの曲の解釈としては長足の進歩（爆）。
ここまで来たら、是非、「３回目」の「1812年」を聴きたい。
2011年のアバドなら、「○カそのもの」になれるに違いない。いや、きっとなれるはずだ。（くどいようだが、褒め言葉である。念のため。）
〜たとえ死んでもいいの（手紙の場）
〜ポロネーズ
459 559-2
別ページにも書く予定だが、このときのジルヴェスターでは最も充実した演奏。ヴェテランらしく老獪な説得力のある、かつ年齢的な衰えを感じさせないフレーニの貫禄の歌唱・重心の低い安定した響きの上に展開されるアバドの激しい解釈・いずれも素晴らしい。
（アバドがチャイコフスキーの歌劇を本格的に取り上げることは、ないのだろう、と思うと残念である・・・。）
00440 073 4530
（DVD）
数えてみると、アバド
アバド/ルツェルンらしい寛いだ雰囲気のなかでスケールの大きな演奏が劇的に展開されていく。決して緻密とは言えないがメロディの美しさが際立つ繊細な解釈。
ACC20101（DVD）
プロコフィエフ「スキタイ組曲」とベルク「ルル組曲」（とその独唱者だったプロハスカのアンコールのモーツァルト「魔笛」抜粋）を併録。
ここではチャイコフスキーについてのみ触れる。
何といっても印象深いのは、アバドの激しく大きな身振り。彼には若い時期の映像も少なくないし、またむしろ60歳代後半の大病後のほうが「指揮姿」としてきまっている映像は多いのだが、それらにも増して、演奏している大勢の若者たちに、会場の聴衆たちに、そしてもちろんディスクを見ている私たちに「音楽を伝えようとする」意志の強さが伝わってくる映像である。
楽団の技量やアンサンブルの精度は、「５」のＷＰや「１０」のＣＳＯや「１４」のＢＰと比較するのははっきり言って酷であろう。しかし、７７歳になろうとする指揮者の「煽り」というか指揮棒を通した「指導」にしっかりと応じた熱演。また、音色は意外にも、また哀しいまでに穏やかで優しい。
なお、第３楽章と第４楽章の間隔の異様な短さは、やはりライブだったＢＰとの「１４」でも認められたが、この演奏では映像つきということもあってか思わず声を上げたくなったほどの急激な転換。ある意味、この両楽章間の一瞬の「間」が、本演奏の最大の聴きどころ。
第４楽章では会場の照明が落とされるという「演出」もあるが、ディスクで見ている限り特に否定的な印象は持たなかった。むしろ、深い陰影に象られたアバドの鬼気迫る身振りを効果的に演出している。演奏面でも・・・この第４楽章は同曲の以前の３演奏では共通して他の楽章に比べるとわずかながら落ちる感じがしないでもなかったのだが、、本演奏では全くそんなことはなく、静かに、重く、本曲の真のクライマックスを構成しているといえよう。
LCB110
時期的には本ページ「６」と「７」の間の約9年間のちょうど真ん中へんに位置する。ただ、録音状態があまり良くないことが演奏自体の魅力も削いでしまっている感は否めない。（また、それを差し引いても、率直に言って「６」のウィーン盤の完成度はここにはないとも思う。）終演後の拍手はかなり激しい上に好意的なので、もし同一演奏でもっとよい状態の音源があれば試してみたいところ。
CDPB-256
・・・いったい何があったのか、と言いたくなるくらいに激しく攻撃的な演奏。指揮者も楽団もチャイコフスキー独特の甘美なメロディと情熱的な節回しを全曲を通してこれでもかとばかりに聞こえよがしに畳みかける。終楽章は攻撃的という以上に暴力的な演奏。（実際会場で聴いてみたかった。）
正規盤のアバドと非正規盤のアバドが大きく異なることが多いのはいろんなページに書いてきたが、これはその典型例という以上に極端な例だと思う。