（1896-1960）
彼のマーラー演奏のCDを初めて聴いたのはそれよりもずっとあとでした・・・。
本CDの初出時（1996年11月）にはこれが同曲の世界初録音、ということになっていたはずだが、今（2012年）は違うらしい・・・。
それはともかく、
指揮者の冷徹でドライな、時にエキセントリックな解釈に楽団が懐かしく味わい深い音色で応えた好演。第2楽章の快活な舞踊と第3楽章のアイロニカルなエレジーは特に聴きものだが、「疾風怒濤」という形容が決して誇張にならない両端楽章も素晴らしい。
例え「世界初録音」ではなくとも、同曲の演奏・録音史上に本ディスクが占める重要性に変化はないだろう。
（なお、第2楽章第6小節以降で急激にテンポを速める解釈は、のちのアバド/BP（1989年12月、DG）に影響を与えているのは明らかだと思う・・・て、私が今さら言うまでもないですねはい（苦笑＋自嘲）。）
ウェスト（A）、WDR女声合唱団、
本CDの解説書表紙には「DIMITRI MITROPOULOS’LAST CONCERT」との記載がある。
ミトロプーロスは1960年11月2日、ミラノ・スカラ座でマーラーの交響曲第3番のリハーサル中に倒れ、帰らぬ人となった（レブレヒト1991/河津・横佩訳1996『巨匠神話』文藝春秋：440ページ参照）。その「2日前」の（しかもそのマーラー第3番の）、ケルンでのライブである。
基本的には端正な解釈だが時々”牙をむく”感じがとても効果的。特に第3楽章のポストホルンの武骨さというか野暮くささは実に素晴らしいし、比較的速めのテンポで典雅なしかし激しい情感をふりまきながら進行する終楽章がまた深い感銘を与えくれる。
録音はモノラルながらしなやかで快活な演奏は、半世紀の現在でも古さを感じさせない。
ニューヨークフィル自主制作の正規盤CD（1998年初出）。モノラル録音だが時期を考えても状態はかなりよく、チェレスタや鐘などの音も明瞭に聴こえる。
明快で華やかでスタイリッシュなNYフィルの音色を生かした基本的には流麗な、よく「歌う」とさえ形容できる演奏だが、随所に現れる”ため”というか微妙なテンポの揺れや表情付けがとても印象深くまた効果的。単に表面だけを整えたような解釈とは一線を画する。
「運命のハンマーが英雄を打ち倒す」などというストーリーにひたってカタルシスを感じないとこの曲を聴いた気にならないような人向けの演奏ではないと思うが、「往年の（しかも、実力に比して不遇だった）巨匠」の真価を垣間見るには不足のない、貴重なライブ録音であろう。
なお、第2楽章がアンダンテ、第3楽章がスケルツォなのは、当時（1955年）においてはこの順序の楽譜が一般的に使用されていたことの当然の結果である（「スケルツォ→アンダンテ」の順のマーラー協会版＝ラッツ校訂版が出たのは1963年）。「指揮者の独自の判断」では決して無い。
ケルツェ、ツァデック（S）、ウェスト、マラウニク（A）、ザンピエリ（T）、プライ（Br）、エーデルマン（Bs）、ウィーン国立歌劇場合唱団、ウィーン楽友協会合唱団、ウィーン少年合唱団。
マーラー生誕１００年の、かつザルツブルク祝祭大劇場が開場した年のライブ、ということにもなる。
録音状態は･･･モノラルで大編成作品のライブということを思えば音自体は、こんなものかな、というところだが、バランスの悪さは、特に第1部ではかなり気になる。
演奏は、第1部は録音の問題もあり熱気が空転気味という感もあるが、
第2部は序奏部から緊張感が違う。芸達者で自在な歌唱を聴かせる独唱者たち、厚い響きで圧倒的な存在感を示す合唱団、懐こく生き生きとしたウィーンフィルのコクのある音色、そして、楽曲への深い共感の下に大胆かつダイナミックで情熱的な解釈で、しかし格調高い硬質の演奏を展開するミトロプーロス・・終演後の大喝采もまた上品。
本CDでは、別々の日に演奏されたアダージョとプルガトリオが連続して収録されている。
アダージョは、同じCDセットに収められている上記「第６番」同様、流麗な中にも独特の間のとり方や表情のつけ方が印象的な美演。
対照的にプルガトリオはエキセントリックにオーケストラを鳴らし、テンポも激しく揺れ動く。おどろおどろしい怪？演。
いずれにせよ「第10番」の比較的早い時期の、というか、全集版（アダージョのみ）やクック版等が一般的になる以前の本曲の数少ない録音のひとつとして大切に聴きたい。