堺田駅からは小牛田（中山平・鳴子）方に約１ｋｍ強、国道47号線を山形県側から進むと県境を越え宮城県側に入ってから数百メートル、国道の北を走る陸羽東線の盛土の中に、忽然とアーチ構造物が出現します。 （クルマで走っていても確実に見つけられますが、わき見運転には十分ご注意ください。）

このアーチ構造物は道路と小川が線路の下をくぐるために、あるいは線路が、道路と小川を跨ぐために設けられたことは明らかです。 道路や川から見れば「線路下をくぐるトンネル」になり、鉄道から見れば「橋」の一種になります。 しかし、後述の理由により、本構造物は「橋」であると断定できます。 （ただし、各部分の名称を説明するときには便宜上、「トンネル」のものを用いる（”坑門””側壁”等）ことをご了承ください。） 開口部の断面は、卵を連想させる独特の曲線によってかたどられています。 ”坑門”はコンクリート製。（内部の）側壁部もコンクリートですが、「卵」の上部にあたるアーチ部分は煉瓦積みになっています。

左は『陸羽東線建設概要』に掲載された本構造物の写真です。 （これを見る限り、当時は「道路」はなかったようです。） キャプションも引用します。 （仮名遣い・漢字等は現在一般的に使用されるものに書き換えたところがあります。） 「後川拱橋　 小牛田起点３３マイル６０チェーン付近にあり。 径間２０フィート三円心拱にして 一部は煉化石積他は悉く混疑土工より成る。」 （太字と下線は引用者による。） 「拱」＝アーチの意味です。 「煉化石」は「煉瓦」、「混疑土」は「コンクリート」のことです。

明治末〜大正中期＝1910年代は、それまで煉瓦・石が主体だった日本の鉄道施設用の素材に、次第にコンクリートが「進出」してきた時期です。 山形県関係の鉄道では、酒田線＝陸羽西線と陸羽東線が、この時期に建設されています。 一般的には、両線とも隧道・橋梁等の建造にあたっては従来よりもコンクリート使用が多くなった、と言われていますが、 本構造物のような盛土内のアーチ構造物に限れば、少し先に建設された西線では（今日でも）全面的に煉瓦製のものをいくつか確認できるのに対し、東線では（とりあえずは弊サイトでとりあげた２基だけですが）アーチ部分は煉瓦・他の部分はコンクリート、となっており、微妙に前後する建造時期が見事に反映されているように思います。 様々な資料・情報を見る限り、このような言わば「折衷」された構造物が生まれた背景には、「新しい」技術・工法の経験やそれに対する信頼感が乏しかった、ということがあるようです。 しかし、羽越本線の（主に）村上〜羽前水沢間に所在する同区間開業当時の構造物がそうであるように、1920年代になるとコンクリートが一気に普及して、煉瓦・石は鉄道の隧道・橋梁から急速に姿を消すことになります。 ・・・というわけで、煉瓦とコンクリートの折衷構造物が鉄道施設として新造されていた時期は決して長くはなく、その意味で、また鉄道施設の材料・構造の変遷を知る上で、後川アーチ橋は貴重な存在、と言えます（と私は思います。）

こっちは北側。 ・・・基本的に同じ形状でも90年近くも日陰に置かれると、当然のことながら日なたのほうとは全く別の雰囲気になってしまう、というのは本構造物に限らずよくあることのように思います。

アーチの煉瓦部分はいわゆる「長手積み」。 煉瓦の隧道・アーチ橋のアーチ部では一般的な積み方です。 また、この画像に写っているアーチ下部〜側壁のコンクリートは、新造時のものではなく明らかに後世に改修されたときのもののような気がします。

最後にこの画像。 このアーチ橋、扁額とか正面のネームプレートとかはどちらの面にもないのですが、南向きの開口部から入ってすぐ右上のコンクリート部分に、施設名が堂々と書いてあります。 「B」は、「ブリッジ」の頭文字。 くどいようですが、本構造物は「橋」です。 ・・ところで、 さんざんエラそうなことばかり書いてきましたが、 「後川」の読みかたをまだ確認してません・・・orz。 ご教示いただければありがたく思います・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 （キャプションは2005年5月5日記）